国王が、その疑念の声を止めようと声を上げる。レインは「国王陛下」とひとこと言って、その言葉を止めた。国王が驚いたように目を見開き、そしてその背後に控えている王兄――アンダーサン前公爵がおや、と片眉を挙げた。ユリウスは何も言わない。

 ただし静かに目の前の貴族らを睥睨しているだけだ。

 ――信じていてくれるのだ。

 レインが、きちんとこの場を治められると。
 レインは微笑んで「お時間を頂戴してよろしいでしょうか」と、大広間によく通る声で言った。
 ざわめきが止まる。視線がレインに集中する。レインは優雅に腰を下げて礼をした。

「たしかに、私を王女だと断じる証拠と言える『もの』はありません。誘拐犯がそのようなものを私の身に残しておくことはないでしょう」
「なら――」
「まだ話は終わっていません。お静かになさって、エウルア伯爵」

 レインはぴしゃりと言って、大広間全体を見渡した。
 何人か、レインが言い返したことに驚いたのみならず、狼狽したものがいる。それを覚えておかなくては。この国を、守っていくために。治めていくために。