あの人は知っている。先だって騎士団長を務めていた人物で、ダンゼントの帰還と同時に副官に降格した貴族だ。オリバー王子の側近を務めていた――そして、レインをあの卒業パーティーの場で貶めようとした子息の父親。

 そうして、先ほどレインにいぶかし気な目を向けたひとのひとり。

「なんだ、申してみよ」
「ありがとう存じます。その方がイリスレイン王女とおっしゃいましたが、その証拠はあるのですか?」
「なに?」
「顔はたしかに先代女王陛下に似ておいでですが、顔つきなどいくらでも似たものがいるものです。元アンダーサン公爵令嬢――失礼、イリスレイン王女殿下が本物であるという証明はあるのですか? 見つかったとき、王女殿下は奴隷だったとお聞きしています」

 たったひとりの貴族が落とした疑問に、ほかの貴族がざわめき始める。

「何を言う――」