「これからはユリウスでいい。レイン、君と私は婚約者で――夫婦になるのだから」
「――ゆ、りうす……様」
「はは、今すぐにでなくていいよ」

 急な提案にレインが耳まで赤くして、ようよう口にした――けれど結局敬称をつけてしまった――呼び名に、ユリウスは苦笑する。

「急には、無理ですっ!」
「うんうん、そうだね」

 レインの言葉に、ユリウスがまた笑う。かわいいものを、かわいくてしかたないと愛でるように見つめられて、レインはどう言えばいいのかわからなかった――と。

「先代女王陛下の王女――イリスレイン王女殿下、並びに、その婚約者のアンダーサン公爵閣下のおなーりー!」

 ネーム・コールマンがレインたちの名前を呼んだ。それを聞いて、打ち合わせで知ってはいたけれど、レインは不思議に思う。

 今まではずっと、レインの名前が呼ばれるのはユリウスのあとで、あくまでユリウスがメインだった。
 レインには公爵令嬢という地位以外何もなくて、あくまでもユリウスの添え物みたいな扱いだった。――それが、今は逆に――もちろん、ユリウスが添え物なわけがないけれど!――なっている。