オリバーは咆哮した。ユリウスにつかみかかろうとして――。

「――……そこまでにしなさい、オリバー」

 その、静かな声に、はっと動きを止めた。
 侍従に支えられながら、ずいぶんとやつれた様子で階上の王族専用の観覧席から降りてくるのは、今この国を治めている国王陛下にしてオリバーの父、その人だった。

「アンダーサン公爵、イリスレインと聞こえたが、その子が……?」

 心労によって落ちくぼんだ目をレインに向けて、国王が静かに言う。ユリウスがうなずくのに、ああ、とため息をついた国王は、レインをしっかりと見つめていった。

「顔をよく見せてくれるか……?」
「……はい、国王陛下」

 レインはそっと屈んで、国王と視線を合わせた。

「ああ、ああ……敬愛する姉上によく似ておられる……。暁の虹まで持って……そうか……あのちい姫は……イリスレインは、生きていたのだなあ……」