「これがその改ざん前の名簿です。ここに、王女を攫う手引きをし、その後行方不明となった侍女の名前が書いてあります。……そうだろう、フィーヴィ・コックス子爵夫人!」
「違う! 違う! そんな、ちゃんと私は髪を黒くして……!あ……」
「そうよ!お義母さまは私のために悪役令嬢を排除しただけよ!」
「黙りなさい、ヘンリエッタ!」

 悲鳴のような声が響く。狼狽して、うっかりと自白してしまって焦るコックス子爵夫人に対して、ヘンリエッタは堂々と、自分は悪くないのだと主張する。

「子爵令嬢には虚偽を教えていたようだな、子爵夫人」
「ちが、私はヒロインを幸せにしたくて……」

 ヒロインとは何なのだろう。レインはこの状況に出てくるはずのない単語に眉をひそめた。悪役令嬢、そしてヒロイン。まるで巷で販売されている小説のようだった。まさか、ヘンリエッタはそう思い込んで生きて来たというのだろうか。自分が物語の主人公なのだと。

「その王女が本物である証拠はあるのか! たとえば、そう、王女を包んでいたおくるみが証拠だなんて認めないからな!」