ユリウスは会場を見回した。周囲の注目が集まってびくりと肩を震わせるレインの頭を、安心させるように撫でる。

「コックス子爵夫人は先だって処罰されたタンベット男爵といとこ同士の関係にあった。タンベット男爵一家の処罰については皆も記憶に新しいだろう。その罪状は違法である奴隷を所持していたこと、だったが。そこには伏せられていたもう一つの罪状があった」

 タンベット男爵――レインは胸を押さえた。それは、レインを奴隷として「所持」していた一家の名前だったからだ。
 ユリウスがいっそう声を張り上げる。

「彼らは王女を隠して虐待していたのだ。私が保護するまで、先代女王の忘れ形見である王女の状況は悲惨なものだった」
「え……?」

 けれど、ユリウスの言葉の内容に、知らない情報があって、レインは思わず声をあげた。コックス子爵夫人が髪を振り乱す。ユリウスは会場に響くような声で続ける。

「嘘よ!」
「私と父は王女を保護し、公爵令嬢として育てた。王女が誘拐され、奴隷として虐待されていたことは許されがたいことだ。早くにつまびらかにされねばならないことだったが、まだ黒幕がわからない以上、王女に危険がある可能性がある。先代アンダーサン公爵は爵位を私に譲り、調査を始めた」

 ユリウスはそこで一度言葉を切った。レインを見下ろし、ぐ、と奥歯を噛む。そうして、まっすぐにオリバーを見つめた。

「……ここまで見つからないわけだ。まさか、王族であり、王女のいとこである、王女を率先して守らねばならないはずのオリバー第一王子が黒幕を隠ぺいしていたのだから」
「な……でたらめを!」