「傘、入ってく?」
君はおもむろに傘置き場の一つを取り出した。白い蝶の模様があしらわれた傘を。
「……。えっ?」
私の声から出てきたのは、さっきと同じ意味のわからない言葉だった。
さっきから、君はなにをいっているんだろう。だって、その傘は⋯⋯
「傘、入ってく?」
君は私の心を探るように、もう一度口を開く。
一瞬、躊躇ったけど、あの言葉の続きが聞きたかった。もしかしたら、そんな想いが私の中で加速する。
「じゃあ、いくよ。」
「うん。」
君が傘を広げる。そして、私もその中に入り、二人で歩く。
「俺さ、今ものすごく緊張してるんだけど。俺の話、聞いてくれる?」
君は、震えた声で言う。
「うん。」
私は、君の言葉にうなずく。
「……俺さ、ずっとこの目つきだったから、よく勘違いされてて、高校では変わろうと思って気をつけてた。でも、上手くいかなくて、独りだった。」
君の悲しそうな声が雨音と一緒に地面へ落ちていく。私は、その時の君を知ってるよ。私も最初は、君のこと怖いと思っていたから。