『バレンタインの日、図書館前で会えますか?』

家に帰ってから四葉はそうメッセージを送る。すぐに既読がつき、『会えるよ』と返信がきた。四葉は強く拳を握り締め、早速チョコレートのレシピを検索し始めた。

「おいしいチョコ、渡すんだから!」

それは、初めて好きな人のために作るチョコレートだった。



四葉が目を開けると、そこには冷たい風に晒された墓石がある。ここには圭吾が眠っている。

高校三年生のバレンタイン、四葉はガトーショコラを作り、胸を高鳴らせながら圭吾を待っていた。しかし、何時間待っても圭吾は来ず、電話をしてもメッセージを送っても、何の音沙汰もない。四葉が不安を抱いていると、友達から電話がかかってきた。

『四葉!ニュース!』

その言葉に四葉はニュースを確認する。そして、目の前の世界から色が消えた。圭吾は図書館に来る途中、信号無視をした車に撥ねられ、その命を落としたのだ。

四葉は泣かなかった。否、泣けなかった。おすすめの本を紹介し、笑い合った人がもういない。それを受け入れることができなかったのだ。