今日も遠巻きに大勢の視線を感じながら、普通の学校とは思えない西洋風の校舎内を進む。
ヒソヒソと囁かれる会話の内容は聞こえない。けれど、きっと好意的なものではないだろう。
この学園に在籍する生徒のほとんどは、学風に相応しい令嬢や御曹司だ。私のような貧乏な家庭出身の庶民なんて、まず私以外には存在しない。
だから、入学してすぐは、何もしていないのに反感を買ってしまうということが多かった。
庶民のくせに、とか何とか。今はあまりそういうのはないけれど、その代わりこうして、毎日のようにたくさんの視線を浴びる日々が続いていた。
静かに学園生活を送りたい私からすると、たくさんの視線は浴びる度に疲れて仕方ない。
「──特待生の夏目さんだ、今日も可愛い……」
「──すっげぇ綺麗だけど、近寄りがたいんだよなぁ」
「──あぁそれ、分かる。美しすぎて逆にな、高嶺の花って感じ」
ヒソヒソと聞こえるたくさんの声。小声だからか、やっぱり内容までは聞き取れない。
どうせいつもの陰口だろう。胸がピリピリ痛むことには知らないフリをして、速足で廊下を進む。
とにかく早く、まわりの声が聞こえない場所に……。
そう思いながらスタスタと歩き続けて、ふと違和感に気付きピタリと立ち止まった。
「あぁっ、またやっちゃった……」
見慣れない場所を見渡し、おもわず頭を抱える。
何も考えずにとにかく歩き続けていたら、知らない場所に来てしまったらしい。
悪い癖だ。いつも、人の声から逃れようとしたらこうなる。けれど今日は、いつもよりも足を進めすぎてしまったみたい。
「ここ、どこだろう」
振り返っても帰り道がいまいち分からない。
これは大変だ。広い校舎だから迷うことは多いけれど、ここまで知らない場所の奥深くに来てしまうことは今までなかった。