この学園では、私は普通じゃない?

冗談だろう、どう見ても普通じゃないのはこの人の方だ。校舎の一角に部屋を持っているのもそうだし、この浮世離れした容姿も、さっき彼が浴びていた注目の多さも。


「納得出来ないって顔だな。本当に自覚していないのか」

「……というか、噂って本当になんなんですか。私はただの生徒ですよ」


表情をコロコロと変える度、彼の瞳がどんどん弧を描いていく。

最早初めの無表情を完全に取っ払った、面白いものを見るかのような爛々とした笑顔、それを見て更に体が強張った。

噂って、本当になんのことだろう。

本気で不安の色を瞳に宿した私に気が付いたのか、彼は今度はのらりくらりとはぐらかすようなマネはしなかった。


「噂の美人特待生。とんでもない美人が特待生枠で入学してきたって、春からずっと噂になっていただろう」

「……はっ!?な、なんですかそれ、知りませんけど!」

「知らない方が驚きだ。普通に過ごしていれば、嫌でも誰かしらの口から聞くだろうに」


身に覚えのなさすぎる噂話を聞いてぎょっと目を見開く。

けれどすぐに、彼が語った一言がグサッと胸に突き刺さっておもわず俯いた。

……普通に過ごしていれば。そのセリフがやけに重く響いて、苦しくなった。


「……だって、友だちとかいないし……噂話を、聞かせてくれるような人なんて……」