そこに見えた彼の表情にぎょっと目を見開いた。
ずっと無表情だったはずの顔に、ほんの微かだけれど笑みが浮かんでいる。
「お前、夏目朱音だよな。噂の特待生」
彼が語った言葉に更にぎょっとした。気のせいじゃなければ今、私の名前を……?
「ど、どうして私のこと知ってるの?」
ただ知っているだけならまだしも、噂の特待生って?
なんだか嫌な予感がして、思わず声を小さくしながら問いかけた。彼の言い方だと、まるで私のことは学園内でそれなりに有名だと言われているような気がして。
彼はきょとんと瞬くと、そんなことも知らないのかとばかりに肩を竦めた。
「本当に何も知らないのか。自分のことですらそれほど無頓着なら、確かに俺を知らなくても無理はなさそうだな」
「いや……あなたのことは知らないよ、当たり前でしょ。話したこともない他人なんだから」
ツッコミどころ満載なセリフに思わず呆れ顔を浮かべると、彼はまたおかしそうに「ふはっ」と笑い声を上げた。
どうして急に笑うんだろう、特におかしいことは言っていないはずだけれど……。
「あぁ、本当に面白い。昨日の件から普通じゃないとは思っていたが、本当に普通じゃなかったな。少なくともこの学園では、お前は普通じゃない」