誰の視線も感じないくらいの人気のない場所まで、とにかくがむしゃらに走り抜ける。

生徒たちは滅多に寄り付かない、用具室や空き教室が連なる廊下まで来ると、ようやく足を止めて壁に寄りかかった。


「──っはぁ、はぁっ」


体力にはあまり自信がないのに、無我夢中に走りすぎた……。

息切れする身体を丸めてしゃがみこみ、胸を抑えて深呼吸をする。しばらくして呼吸が落ち着き、顔を上げた時だった。


「はぁ……は?」

「おい。大丈夫か」


しゃがみこんだ姿勢で視線を上げた先、至近距離に見えたのは同じくしゃがみこんでこちらをじっと見つめる男子生徒の姿だった。


「え、えっ?」


息がかかりそうなほどの近さに、彼の顔がある。そう、男の子(・・・)の顔が。

一拍遅れてそれを実感した瞬間、再びぞわっと鳥肌を立たせながら飛び上がった。


「え、えぇっ!?」


後ろ向きにどさっと尻もちをつき、思わずチカチカと目を回した。