その後の授業に集中するうちに、あの部屋のことをすっかり忘れてしまっていた。

ようやく思い出したのは翌日のこと。学校の玄関で靴を履き替えていた時、ふいにハッとあのことを思い出して青ざめた。


「どうしよう、すっかり忘れてた……」


冷や汗が流れるけれど、焦ったところでもう遅い。

昨日の放課後に、例の部屋の主に会って謝罪をしようと思っていたのに。

やっちゃった……と頭を抱えて蹲る。靴箱の前で膝をつく姿はかなり目立つのか、いつものように遠巻きからたくさんの視線を感じた。


「──夏目さん、どうしたんだろう。具合悪いのかな」

「──心配だけど、話しかけるの恐れ多いよな……」


周囲のざわめきが大きくなるのを察してハッと立ち上がる。

いけない、このままだと面倒なことになっちゃう。ただでさえ特待生って立場だけでも目立つのに、これ以上目立てば例の男子生徒に私の存在がバレてしまう。

今はあの部屋の主に、私のことを知られたくない。しばらくは目立たないようにしないと。

そう思い、慌てて昇降口を抜け、教室まで速足で向かった。