「え、聞いてない?」と由井くんは振り返って立ち止まる。
「佐百合はうち、阿久津沢定時制の頭だよ」
阿久津のトップ
その言葉を聞いて、いままで感じていた彼の異常な強さに納得がいった。
それに、さっきのあの生徒たちの青ざめた顔を思い出す。
柳は、彼らを統べる存在なのだ。
体の中を、重い何かが通り過ぎて行くような感覚に、一瞬だけ呼吸するのを忘れる。
「阿久津沢の白百合」
由井くんが呟いた。
「あいつの名前だよ。他校の奴らはそう呼んでる。」
阿久津沢の白百合、と思わず復唱してしまいたくなるような響きだった。
「佐百合がうちの高校に入ってすぐ、当時3年だったクソ強ぇ幹部を たった1人で倒したんだ」
由井くんの話し方は思い出話でもしているみたいな言い方だった。
「その後すぐに、当時はめちゃくちゃあった他校とのいざこざを、相手を全員負かして解決に持ってった。それが佐百合」
彼はそう言ってからため息をつくと「阿久津沢の白百合ってのは、その時ついた名前」と
言いながら少し微笑んだ。