▽
あれから数日が過ぎ、7月も終わりを迎えそうだ。
家に泊めてもらった数日間のお礼をするために、私は柳のおばあちゃんに会いに来ていた。
街で買った焼き菓子と、かぼすへのおやつ。
紙袋をぶら下げて、玄関のチャイムを押すと
奥からなつかしいおばあちゃんの声。
「この前は、本当にありがとうございました。これほんの気持ちですけど、受け取ってください」
「あらまぁ、いいのに。そんな気を使わなくて」
柳のおばあちゃんが微笑む。
その彼女の足元をするりと抜けるようにかぼすがやってきた。
私のことを覚えててくれたみたいだ。
「かぼすにも、プレゼントあるよー。はい、どうぞ」
かぼすに向けて猫用のおやつを差し出すと、不思議そうに匂いを嗅いだかぼすをみて、「まぁ、良かったわねぇ」とおばあちゃんが鼻先を撫でた。
「そうだわ。葉月ちゃん」
思い出したかのようにおばあちゃんが私を呼ぶ。
「今度、あなたに会わせたい人がいるの。今度時間を作ってくださらない?」
「会わせたい人…?」
一体誰だろう。
「安心なさって。素敵な方ですの」とさらに微笑まれる。
「…はい。わかりました」
おばあちゃんが何を考えてるのか全く読めないが、何か悪巧みするような人でももちろんない。
私は言われるがままにして柳のおばあちゃんと待ち合わせする日を決めた。
帰り際に、「待って!」と、何か思い出したような表情のおばあちゃんに引き止められる。
「これ、佐百合に届けてくれないかしら?」と、柳のスマホを手渡された。
連絡がつかないと思っていたら…家に忘れてしまっていたのか。