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数日間の柳の家での同居を終え、私はまたもとの生活に戻った。
と言っても、通っていた池田美術スクールは正式に辞めることにしたけれど。
森田との一件があったあと、何度かスクールに塾を辞める意を伝えるために電話をかけていたものの、ずっと繋がらないままだった。
抵抗はあったが中途半端に席を置いても嫌なので、電話をかけ続けていた。
世間的には生徒への暴行事件になる。
そのままいつも通りにというわけにはいかなかったのだろう。
ちょうど柳の家を出る日に電話は通じ、事務の女性の方に「やめます」と一言伝えることができた。
さて、父にはどう言い訳をしようか。
そんなことを考えながら自分のアパートへ荷物を抱えながら戻った。
数日ぶりに戻った部屋は、なんの変わりもなく
描きかけだった絵も、絵の具もそのままだ。
なんだか画材のにおいが懐かしい。
私の好きなことをする場所で、あんなにも怖い目にあったのに、その懐かしい匂いをかいだとき少し嬉しかったのは
私はまだ絵を描くことが好きだということ。
描きかけのキャンパスを見つめながらそんなことを考えた。