隣を見ると、彼の視線とぶつかってしまう。
私の心臓はけたましく音を立てた。
隣にいる彼にまで聞こえてしまうんじゃないかと不安になる。
「アンタの指、細くて綺麗だな」
「…人に指を褒められたのははじめて」
気を紛らわそうと答えた軽口も、震えてしまって、かえってその空気を逃れるための言い訳みたいに聞こえる。
「葉月」と、彼が私の名前を口にする。
彼から名前を呼ばれるたびに、身体の中が熱くなる。
彼は私の手に視線を向けながら口元まで持って行くと、ちゅっとキスを落とした。
伏せた長いまつ毛がゆっくりとまたたいて、こちらを見る。
まるでこちらを揶揄っているような視線の動きだった。
かあっと耳まで熱くなっていくのがわかる。
人にこんなふうに触れられるのは慣れていない。
柳のことが好きだ。
そう確信した時から、もっと彼のそばにいたいと、そしてもっと彼に触れたいと思うようになった。
実際、あの事件があった時も
彼がそばにいてくれたおかげで私は正気でいれた。
だけど、こんなの
知らない。
「や…なぎ…」