「さっ、行こう」
不服そうな柳を無理やり連れて家を出ると、2人で並んで柳の家に帰った。
なんだか変な気分だ。
けれど、「おかえり」と笑いかけてくれるおばあちゃんと足に擦り寄ってくるかぼすを見ると
やっぱり彼についてきて良かったと思えた。
ここはあたたかい家。
家に帰ると誰かが笑って迎えてくれる。
たわいもない話を報告したり、一緒に食事を作ったり。
どれも私にとっては初めての経験で、ひとつひとつがうれしい。
ずっとお世話になるわけにもいかないので今週だけ、という期限を決めて柳の家にいることにした。
ちょうど今週はバイトも入ってないし、塾へももう行くこともないだろう。
数日間限定の、不思議な同居生活が始まった。
こんなに時間がたっぷりある日を過ごすのは久しぶりで、逆に何をすればいいのかわからない。
柳は日中から夜の間家にいないので、
その間、私はおばあちゃんの手伝いをしたり
かぼすの相手をして時間を過ごした。
こんなにゆったりとした休日を過ごすのはいつぶりだろう。
柳のおばあちゃんはどうやら読書家のようで、おすすめの本をたくさん教えてくれた。
そのおかげで家にいる間、手伝い以外の時間はほとんど読書。
暇だと感じることはほとんどなかった。
「明日帰るのか?」
「うん」
珍しく早く帰宅した柳が、私の部屋を訪れて聞いてきた。
読書をしていた私は本を閉じる。
柳の跡をついてきたかぼすが、閉めかけの襖からするりと滑り込んできて、畳んでいた布団の上に寝転ぶ。