「ごゆっくり召し上がってね」とおばあちゃんが居間から出ていくのを見送ったあと、柳が
「体は大丈夫か?」と聞いてきた。
「うん…。ありがとう」
「いただきます」と、用意してもらった朝食を食べ始めると、あまりの美味しさに箸が止まらない。
柳は机に頬杖をついて、楽しそうにこちらを見ていた。
「ごめん…美味しくて…。柳は食べないの?」
「もう食べた」
「そっか。…こんな美味しいご飯、久しぶり」
「ばーちゃん、料理うまいからな」
彼はそう言って、廊下の先の庭で洗濯物を干しているおばあちゃんに視線を向ける。
「2人で暮らしてるの?」
「あぁ。…それとかぼすも」
どうして2人で暮らしているのかは聞かない。
私だって1人で暮らしているし、人には色々な事情がある。
柳が私に話したくなったら聞けばいい。
「アンタがよければ、しばらくうちにいればいい。…1人でいない方がいいだろ」
「……」
彼のいう通り今は1人でいない方が良いのかもしれない。
もうあの塾へ行くこともない。
家にある書きかけの課題も、完成させる必要もない。
昨日の記憶がフラッシュバックしそうになるのを、無理やり頭を振って掻き消した。