かぼすの鳴き声がする。



柳と私は向かい合ったままくすりと笑いあった。



柳の笑った顔が優しくて、涙がまた溢れる。



「アンタ、名前は?」



「………名前?」



おかしな話だ。


彼のいう通り、私たちはお互いの名前も知らない。



「そういえば知らないなと思って」



「…鷹宮、葉月。あなたは?」



「 柳 」



「それは知ってる」



「柳 佐百合(やなぎさゆり)」




柳 佐百合という名前の、
私が思うに、この世で1番綺麗で美しい男が私の涙を優しく拭った。



名前まで美しくて、清らかだ。



「ねぇ、柳」と名前を呼ぶと、ん?と深い群青の瞳が私を捉える。



本当にとても綺麗な色。



「お願い、柳ので上書きして…」



語尾が震える。



涙が混じったその言葉は、私からのお願いだった。



柳はその美しい瞳をさらに優しい色にすると、私の頭に手を回した。




彼の手の(ふし)には汚いアイツの血と、彼自身の血が滲んでいる。



対し、私の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。




名前も知らない私たちの、なんて無様なファーストキス。





とてもあたたかくて、心臓が苦しくて、どうにかなってしまいそう。




お願い柳、あなたのその美しさで、このまま、私が汚れない様に引き留めて。




私たちはお互いを確かめ合う様にキスをした。




「へいき?」



柳がおでこをくっつけたまま、私に問う。



私は涙で前が見えないまま頷いた。




大丈夫。



柳がいるから、もう平気。