柳の手には森田を殴った時に出来たであろう傷があった。


骨のところが赤くなり、血が滲んでいる。


彼の血なのか、森田の血なのかどちらかよくわからない。




「ごめん…手…」



「なんでアンタが謝る」



「わ、わたしの…せいで…」



頭の中に、先ほどの記憶、感触、何もかもが
一瞬にして蘇る。



「違う!アンタは何一つ悪くない」



声を荒げた柳が、苦しそうな表情で私をみた。


初めて聞く柳の声。


初めて見る柳の顔。


なのにこんな苦しそうな顔なんて。




体を(まさぐ)る感触が、まだ残っている。


思い出すだけで、吐き気が込み上げてきた。



「ごめん…」



柳は私を抱きしめた。


柳の香りに包まれて、悲しくもないのに涙が出てくる。



「大丈夫、柳が助けてくれたから。…大丈夫だよ」




とても怖かった。

気持ち悪くて、死にたいとさえ思った。


先程まで張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、身体はちいさく震え
涙が止まらない。



体に回された柳の腕が、ぎゅっと強くなる。



私も彼を思い切り抱きしめた。





そう簡単には消えないのかもしれない。


けれど、今この瞬間


私の隣には恋焦がれた美しい男がいる。


とっても優しくて、強い、私の好きな人。



私は1人じゃない。