ゆらりと、柳がまた飛ばされた森田の元へと近づいてゆく。



森田は泣きながら、這うようにしてその場から逃れようとしていた。



「ゆ、許してくれ……、た、たたのむ…」



「あ?」



もう1発。


2発。


柳は森田を殴る。



こんな柳、みたことない。



もうほとんど喋れず呻き声をあげる森田。



柳の動きは止まらない。



「も、いい…!やなぎ…!」



ふらつく足元。

だけど私は柳を止めに動いていた。



拳を振りかぶった柳の腕を掴んで叫ぶ。




「しんじゃう…」




もういいよ…



柳の背中に抱きつくようにしてもうやめてとせがむ。






「柳さん!!」



バンっと大きな音と共に、後ろから名前を呼ばれたところで、やっと柳が後ろを振り向いた。



見ると『orchid』で話した赤髪の子が、ぜーぜー息を吐いて準備室のドアを開けて立っていた。



茶髪の人もそのあとを追うようにして走ってきた。



「由井、警察と救急車」



「あ、あぁ。わかった」



2人は私と森田を交互に何度か見ると、何かを察したようにすぐさま準備室を出て行ってしまった。


教室の方から電話する声が聞こえてくる。






それからの記憶はあまり覚えていない。



ぼやけた意識の中、私はいろんな人に色んなことを質問され、そして医者のような人にも体が平気か検査されたらしい。

ぼんやりと、父にも連絡がいってしまうのかのな…などと、そんなことばかり心配していた。



その間、柳も私と同じような状況にいる、と後からやってきた『orchid』のオーナーの女の人が私の背中をさすりながら教えてくれた。



「なにがあったか教えてくれますか?」



スーツを着た女の人に聞かれた質問。


答えたくても話せない。


話そうとすると吐き気が込み上げてきて結局何も話せなくなり、曖昧な回答しか出来なかった。



けれど、これだけははっきり答えることができた。



柳は悪くない。


彼は私のことを助けてくれた。


それは間違いない、と。