彼の大きな手が私の顎を掬って、そのまま唇の端に親指を当てがった。
そしてそのままリップを拭うかの様にして唇をを撫でたのだ。
「!?」
それは一瞬のことだった。
全身の血が逆流するみたいに、体の中を勢いよく駆け巡る。
驚いて身体を突き放した頃には彼はもう扉の向こうにいて、「またね」と、ひらひらと手を振っていた。
びっくりしてしばらく放心状態だった私が、追いかけて家の外に出た頃には、彼の姿はもうなかった。
今のは一体何…?
身体中が熱い。
どくどくと、耳元で心臓の音が聞こえる。
混乱する私を、部屋の血が滲んだティッシュが現実に引き戻す。
どうやら夢ではないらしい。
ふと部屋に目をやると、彼が描いた私の顔…もとい自画像が、こちらをじっと見つめていた。