食品や果物、薬などが入った袋を手渡される。
「…、じゃあ私 帰りますね」
そう言ってリビングの扉に手をかけた彼女を、僕は咄嗟に引き留めた。
自分でも、どうして引き留めてしまったのかはよくわからない。
薄暗い照明に当てられた彼女の長い髪が、さらりと揺れる。
驚いた顔でまっすぐこちらを捉えた彼女の瞳は、純真無垢そのもの。
僕を信じて何も疑わぬ、まっすぐな瞳。
柳には勿体無いくらい、綺麗だった。
「まだ、行かないで」
僕の言葉で、その瞳に困惑の色が滲む。
「鈴木さ…ん…?」
あぁ、このまま押し倒して君を僕のモノにしてしまったら、柳はどんな顔をするんだろう。
「あの…」
「…冗談だよ。…そんな顔しないで」
と言って彼女の手を離す。
彼女の顔がほっと安心したのがわかった。
「今日は迷惑かけてごめんね。気をつけて」
「いえ…お大事にしてください。では…」
困惑の色を残したまま、彼女はぺこりと頭を下げて家を出て行った。
彼女に触れていた手には、まだ少し温かさが残っている。
「ふふ、鷹宮葉月 ね…」
僕は笑いながら彼女が残していった食料が入っている袋を手にした。
キッチンにある大きなゴミ箱のペダルを踏むと、パカッと音を立ててその大きな口が開く。
ぽいっと、指先を離してしまうのは簡単なことだった。
それなのに、僕は…
思わず笑みが溢れる。
「あーあ、参ったなぁ」
笑みは次第に笑い声に変わり、何も無い広々とした部屋に吸い込まれるようにして消えていった。