「ねぇ、葉月ちゃん」と、隣から名前を呼ばれてみると、筋の通った綺麗な横顔が目についた。
「君って、絵が好きなんだよね?」
「え?」
「画集、借りてたでしょ?」
「はい…。…鈴木さんも、好きなんですか?」
鈴木さんは視線を前に向けたまま頷く。
「今大学で印象派の画家について論文を書いてるんだ」
えっすごい、と思わず声が出た。
偶然会った人が、まさか絵画好きだなんて。
「それでなんだけど」と、彼は続ける。
「君が良ければ、また会えないかな?あの図書館で」
「…また、ですか?」
「今書いてる分の論文について、絵が好きな君の意見も聞きたいと思って」
なるほど。
少し興味があった。
もしかすると、私にとってもそれは勉強になるかもしれない。
それに大学生の論文とか、読んでみたいと思ってたんだよね。
思わず二つ返事でOKしてしまった。
私がなり損ねた大学生が、どんなことをしているのか単純に興味がわいたからだ。
「良かった。後で連絡先交換しても良い?予定を組もう」
私の返答を聞いた鈴木さんはホッとしたように息をついて笑った。