「本当に気にしないで。食べてね」と鈴木さんが微笑む。


いいのかな…と思いつつも、ここまで来て断っては申し訳ない。


私は一口、ぱくりとケーキを食べる。


久しぶりに口にした生クリームは、とろけるほど甘くて美味しかった。



「美味しい?ふふ、良かった」



私の表情の変化を見逃さなかったのか、鈴木さんがクスリと笑う。



真っ黒な髪。

真っ黒な瞳。

柔らかい表情。

そしてその表情をさらに魅力的に見せる、完璧な位置の目元のホクロ。


鈴木さんと名乗った男は大人でミステリアスな雰囲気を纏っていて、なんだか掴めないカンジだ。



そしていきなり口を開いたと思えば、



「葉月ちゃん、って 呼んでいい?」



と、距離を詰めてきた。


人当たりのいいお兄さん。

好青年。

美青年。

そんな言葉が似合う。



私は頷きながらもう一口、ケーキを食べる。



「鈴木さん…は、風邪引きませんでしたか?あの後…」



土砂降りの中、雨に打たれていた鈴木さんの姿を頭に思い浮かべる。


鈴木さんは、面食らったように一瞬目を丸くした。


そしてまたクスリと笑みをこぼすと、「あぁ、大丈夫だったよ」とにこにこしながらコーヒーをもう一口飲んだ。