二階堂先生のアトリエでの時間を終え、私は図書館に立ち寄っていた。


柳は最近なにやら忙しいらしく、連絡はたまに取っているものの、あまり会えていない。


ずらりと並んだ背の高い本棚。


静かな館内で目当ての画集を探すために、一つ一つの背表紙を探しながら歩いていた。


私より頭一つ分高い上段に、探していたタイトルを見つける。


背伸びをして指を伸ばしても届かない。


あと、すこしなのに


するりと後ろから手が伸びてきて、長くて綺麗な指先が、背表紙を引き出す。



ピアノでも弾いてそうな長いその指に、思わず見惚れてしまう。



誰かがその本を本棚から取り出してくれたみたいだ。



「どうぞ」と、低くて柔らかい声が降ってくる。



振り向くと、この前雨の中で見かけたびしょ濡れの男が、にこりと笑って画集を渡してくれた。



当たり前のことだけど、今日は濡れていない。



「あ、この前の…」



ありがとうございます、と差し出されたそれを受け取る。



「いいんだ。こちらこそ、この前は傘をありがとう」


「いえ、そんな…わざわざ…」



いいのに、と声がしぼむ。