さらにぐいっと、襟を引っ張られる。
私の鼻先が彼にさらに近づいた。
少し動けば、キスできてしまう距離。
鼓動が早くなっていくのがわかる。
やはり、この距離で彼の顔を見つめるのには慣れない。
「や、やなぎ…人が見てるよ」
「あぁ。そうだな」と、彼はその距離から離れようとしない。
柳の唇が、私の唇を掠めてしまういそうな距離…あとほんの少し近づくだけだ。
まるでここには私と彼以外いないみたいに、柳の瞳が私を捉えて離さない。
ぼうっと頭に血がのぼって、頬が熱くなる。
「柳ばっかり、ずるい」
私ばかりが胸をときめかせて、彼はいつも余裕そうだなんて。
おまけに意地悪してくる。
「ずるいのは、どっちだろうな?」と、低い声で柳は言った。
そしてふっと笑うと、襟元をはなして体を遠ざけた。
「ただいまー」と、三人が揃って帰ってきて、体がびくりと跳ねる。
柳はさっきまでのことがなかったみたいに、ビーチバレーをしに浜辺に出た彼らをゆっくり追いかけて行った。
やれやれ。私はいつまで彼に翻弄されてしまうのだろうか。
大きなため息をついて私もそこに続く。