思わずギョッとしてしまうほどずぶ濡れ。
濡れたシャツは体にはりつき、したの肌が透けて見えている。
漆黒の髪の毛はシャワーを浴びたみたいに濡れていて、髪の先から零れた雨粒が肌を伝ってポタポタと落ちている。
「ありがとうございます…!」
お礼を述べるとその男は薄い唇で微笑んだ。
男の人にしては紅い唇。
蒼白い肌。
目元には完璧な位置に涙ボクロがある。
こんなにも濡れているというのに綺麗な顔立ちをしていた。
美青年。
私は心の中でつぶやいた。
「どういたしまして」と、低い声が返ってくる。
はだけたシャツから見える首元には、蛇のようなタトゥーが覗いていた。
スマホを受け取る時に触れた彼の指先は、とても冷たい。
こんな雨の中、傘もささずにどうして…
「あの、良かったらこれ使って下さい」
お礼に、カバンの中に一つ余っていた折りたたみ傘を差し出した。
このままでは、風邪を引いてしまう。
「私、もう中へ入るので。好きに使ってくれて大丈夫です」
「入りますか?上にお店があるんです」と、ビルの上を指差す。
彼は顎を持ち上げ、私が指差してい『orchid』のほうを見上げた。