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「ごめん!いまから向かうね」
柳と『orchid』で待ち合わせをしていたのに
運悪くバイトが長引いてしまって、私は焦ってデイジーを飛び出した。
土砂降りの雨の中、傘をさして早足で街中を抜けていく。
お店にはもうすでに、由井くん、あさひくんもいるみたい。
暑いアスファルトが雨で冷やされて蒸発した空気が、もわりとあたりに立ち込めていた。
歩くたびに、バシャバシャと音がなるほど酷い雨で、前がよく見えない。
靴の中に染み込んできた雨水がじっとりつま先を濡らしていく。
傘を跳ねる雨音、道路を猛スピードで駆け抜けていく車の走行音ですれ違う人の話し声すら聞こえない。
湿ったつま先が足元をもつれさせ、躓きそうになり「ひゃ!」と情けない声が出る。
その弾みで手に持っていたスマホが指をすり抜け、つるりと地面に落ちていった。
カツン、カン、と何度か地面に跳ね返りながら
勢いよく道に転がっていく。
雨で濡れてしまう、急いで拾わなくては…と
手を伸ばした先で、心優しい人がスマホを拾い上げてくれていた。
この雨の中、傘もさしていない男の人が立っている。