「でも、ありがと。浴衣、ちゃんと着て行くの初めてで、会えなかったらもう帰ろうって思ってたしで怖くて、会えて、よかっ……」
急に、私の頬を掴んできた。
「ほら、似合ってるからもっと笑う」
彼は、私が欲しい言葉を、いつだってくれる人だった。
きっと、そんな尊い人のことを、人は、愛してると言う。そう、私は彼を好いている。
「笑ってたら何でも可愛くなるから」
どこか曖昧に、だけど元気に、縦に頷く。
「…愛想笑いでも、苦笑いでも、作り笑いでもいいから、やっぱり、いつだって笑ってなきゃ、生きてけないね」
自分に言い聞かせるように言ったその言葉は、彼の胸に響いただろうか。
これでいいって、思えるから言いたいだけ。
その時、大きく咲いた花火の音が鳴る。
気付いてなかった。花火、鳴ってたんだ。
綺麗な花火すら気付かず、下を向いていた。
「ごめんごめん。よし、屋台行こうか」
それからまた1歩と進んだとき、「ストップ」と止められて足を止める。なに?と振り返ると、彼はムッとした表情をしていた。
「人混み、嫌なくせに無理してるんでしょ?」
「…え、や、別、に、そんなことは…」
見抜かれてしまい息を詰まらせる私に、ため息を混じらせて「ほら、」と続ける。
「いっぱい俺が買ってきてあげたから、ここで一緒に食べよ?」
「え、買ってきて、くれたの?」
あの賑やかさの中で食べるのが美味しいんじゃないのか?いいの?朝くんはそれで…
「一緒に食べたかったから、1人の間、とりあえず買い貯めておいた」
「……ありがと」
「ほんと、相変わらず嘘が下手で。かわい」
「嘘、得意だったんだけど…」
ああ、彼には叶わない。
それは何度も何度も、高校生の時にも思ったことだ。きっとこれからも、ずっとずっと、永遠に叶わないんだろうな。
でもきっと、朝くんだって思ってくれてるはず。私には叶わないって。