彼の方に近付いて、明るい電灯の下で改めて顔を確認する。相手の方も同じで、私の姿を見て、はっとした顔をした。
「あー…先行っといてって言ったのってそれ…」
「う、あ、えっと、…浴衣を着て、朝くんを驚かせてやろうと思いまして……」
自分の浴衣を見る。
紺色の、花柄の浴衣。夜の空の色にどこか似ている。お母さんが昔に使っていた、実家にあったものを持ってきた。
…想像以上に、汚れている。
お団子にして髪飾りで止めてるけど、髪が原型を保てているか、確認すらしたくない。
「はは…転けちゃって汚れちゃったぁ…」
苦笑いするしかない私に、彼は近付いて、急に髪に触れてきた。思わず、後ろに下がろうとしたが、じっと、我慢することにした。
何するつもり?なんて思っていたら、どうやら髪飾りを、着け直してくれているらしい。
その時間は、なんだかよくわからない。
彼は、再度確認するように距離をとって、私を下から上までじっと見つめる。
それから、よし直った、とでも言うかのようにふっとどこか優しく笑う。
「…いやいや、うん、行こう」
何て言われるのか怖い。
無理だ、恥ずかしい。
私なんて浴衣が似合わないとか、浴衣着てるのに転げ落ちるとか、クソどんくさい女ってことは十分に理解してて―
「待って」
私の腕を後ろから引っ張る。振り返りたくない。こんな自分が、恥ずかしい。
浴衣なんか、着なかったらよかった。
―ずるすぎるくらいの言葉を、耳に囁かれる。
「可愛すぎだろ」
「っは…?」
「髪も浴衣も、転けちゃったのも崩れちゃってんのも、可愛すぎる、無理だって…」
振り返った私を見て、彼は愛おしいような眼差しで、甘え声になって私に言葉をかける。
「ねぇ、早く俺と結婚しよ?」
「ちょ…早いって」
なんだか言い返しずらくて言葉に詰まりながら、笑った。ああ、やっと安心して笑えた。