「どうしたの?お姉ちゃん?」

「ありがと、何でもないよ、」


私は笑って、浴衣に付いた汚れを払う。

「お母さんー!」と元気な声で男の子は駆けていった。もう小学校中学年くらいだろうか。

その成長した少し大きな背中に、私は小さく手を振った。振り返してもらわなくていい。ただ、私が振りたいだけだったから。


だけど、それに気付いた男の子は、精一杯な笑顔と汗で、私に手を振ってくれた。


また、花火が打ち上がる。

人気の外れた場所へ来た。

 
人があまりにも多くて、吐き気がする。やっぱり、こういう人が多いの苦手だなと思う。

ここは真っ暗で人気がなくて怖かった。遠くの方で賑やかなお祭りの音楽が聞こえ、賑やかだ。

これからどうしよう。帰ろうかな。情けなかったかな。花火、一緒に見たかったな…



「翠?」


低くて、優しい声が落ちてきた。

朝陽みたいに、私が求めていた、声で。

空から落ちてきたのは、花火じゃない。


「やっと見つけた」

「あさ、くん」

「こんな人気のないとこ、1人で危ない」


ほっとしたような顔をしたが、すぐに彼の頬が膨らむ表情に変わる。

いつもの朝くんの声と顔が目に入って、冷えた心が、不思議と温かくなる。