―大きな、花火の音がする。


始めには、小さくて長い音がして、花火の元が夜空へと上がりをみせる。期待が寄る。楽しみで、思わず空を見上げてしまうだろう。


それから、花を咲かせたように大きな音が鳴る。


暗闇で夜の色に染まった空には、

大きな大きな、花が咲く。


その時その瞬間の空は、暗くて怖い夜じゃなくなる。冷え寒い温度のままなのに、明るくなって、夜なのにと、不思議な感覚に陥る。


この花火を見上げる人だけはきっと、心が通じ合える。1つ1つ上がる花火への感じ方、想いも1人1人違うけど、その時は、同じ想いを1つ、きっと人は想っているはずだ。

同じ気持ちになれるから、大切な人と見たくなる。絶対に後悔しないから、絶対に、怖がりで暗い心に、光を灯せるから。



死ぬまで色褪せないような、記憶をどうか鮮明に、残しておきたいから。








私は、準備をするのが遅い。

そんな私だが、彼も準備や食べるのすら遅い。


私よりも準備物は少ないはずなのに、何故か動きが鈍い。だけど今日は、準備が遅いわけでもなく、「先に行っといて」と言った。


「え、なんで?別に待っとくけど」

「ううん、行っといて」


わかってる。いつだって朝くんは私のことを待ってくれる。

それでもと念押しする私に彼は、よくわからなそうな顔をしていた。

察しろ…、と心の中で祈り続けていると、その思いが通ったように「わかった」と彼は家を出て行った。