「東花、彼女とかできた?」


不意に聞いてみた、その時、鈍い音がした。

えっ?

見ると、東花は自分の指を包丁で切った。指に細長い線ができて、その中から血が垂れていく。


「え、あ、え!?だ、大丈夫!?!?」

「…大丈夫」


慣れているのか、慎重にティッシュで傷口をさっと押さえる東花に、聞いてみる。


「ごめん東花…え、か、彼女いるの?」

「は、なんで、そうなる?」

「だって今、動揺したんじゃ」


してない、と東花は斜め下を向く。どこか頬が赤に染まっているのを見て、察して私は何も言わないでおいた。なのに。


「夕、最近彼女できたらしい」


肝心なとこだけは聞いている朝くんは、顔を出してきてそう言った。

私は「やっぱりな」と声を上げて、


「おめでとう!!」

「しかも、その彼女ってあの人らしいよ?翠の友達の、誰だっけ、鳥みたいな名前の人」

「小鳥!?えええ!!」


最近は中々会えてないが、顔は鮮明に思い出せる。柚や小鳥とは、高校を卒業した今でも仲良くしている。


確かに小鳥は、東花に想いを寄せていた。

けど、本当にそれが叶うなんて…


「お前な?もういいけど、言うなつってた約束を平気に破んな?あと、お前うっさい。ここマンションだぞ?響くだろ大声出すな」

「どういうお成り立ちで?」

「…まあ、普通に仲良くなったというか」

「やっぱ小鳥可愛い?優しい?」


いたずらっぽく聞いてみると、東花は恥ずかしさを隠そうと無表情で、曖昧に頷く。

困らしていじってしまったことに、「ごめんごめん」と謝る。


「…とりあえず、優しい」


無表情だけど優しく断れない性格の東花は、時間が経っても、何も色褪せず変わらない。

東花がいて、小鳥がいて、私は今、精一杯に瞼を開いて生きることができている。