―キッチンで何かを作る東花の手さばきをじっと見つめる。
その時間は、私にとってどこか至福の時間だった。なんだか見ているだけで楽しくなる。
包丁との距離も近く、怖くないのかなんて、子供心で思ってしまう。
レシピも何も見ずに作れるってすごいと思う。東花の料理は本当にいつも美味しいし。
「東花って、専門学校だっけ」
「料理の専門のとこ」
そうか、料理の専門学校に行ってるのか。
何気に初めて知ったことだった。聞いてなかったら、東花はずっと教えてくれなかった。
イメージがなく、驚きと尊敬の眼差しで見つめる。すると、東花に睨み付けられる。
「なにさっきから見てんだよ」
「あ、いや、見てたら、私もできるようになるかなぁとか、思ったりして…ごめんごめん…」
その場から去ろうとすると、東花は手招きして私の隣を指差した。
「こっち来れば?教えるから」
どこか言葉遣いの荒い東花の隣に、小走りで移動する。
そうだ。教わって、私だって料理が出来るようにならなきゃいけない。
これをこうして、と材料ややり方やポイントなど、意外にも簡単なことばかりで、1食分のレシピを教えてもらった。
「簡単だろ?これなら俺がいなくてもできる」
「…うん、これならできる、かも」
かもかよ、と東花は無表情でツッコミを入れる。「まあ、でもよかった」と無表情だけど、どこか満足げに頷いた。