扉を開ける音がする。案の定、入ってきたみたいだ。
「大丈夫大丈夫」
耳のそばで言い、彼は目を閉じた。
眠れるわけもなく、私の目はガン開きだ。
「いや無理なんで!!!起きま………」
入ってきた人と目が合う。
怖いほどに静寂が流れている。物音も勿論声もしない。恐ろしい、そのおぞましい視線を感じながらも、私は見ないようにしていた。
「い、痛たたたっ!!!」
珍しく叫ぶ彼の声が聞こえた。はっと見ると、隣にいた彼が、耳を引っ張られている。
「ふざけんな何してんの?翠、怖がってんだろ?同居人に変なことすんな?」
引きちぎられそうな耳を横目に私は「もっといけー」と、スポーツ観客のように満足げに応援する。
「っ一応カップルの部屋なんで。勝手に入らないでくれますかね?」
一瞬、打撃を受けたようにした東花だったが、依然、耳を引っ張る。
「俺に鍵を任せた奴が悪い。あと、家事できないから周りに内緒でご飯作りにきてくださいって言ってきた奴は?誰だよ殺す」
私は、洗濯物や掃除など大体は出来るようになったのだが、料理だけは出来なかった。
最初の頃は、彼が作ってくれていた。料理だってできると、彼が言い張っていたから。
「えっと、なにこれ?」
一見何でもできそうな彼は、料理だけは大の苦手だったらしい。