「おはよ」



誰の、声だろう。優しい、優しい声がする。

まだ、私は夢の中にいるんだろうか。



「ほら、起きて」



誰かが、私に声をかけて肩を揺らす。

誰かが、私を起こしてくる。


この夢は、見たことあるなぁ。


あんまり声は覚えていないけど、多分、男の人で。男の人と寝てるみたいな気持ち悪い夢、私って奴は、ほんと何回見てんだ?


僅かに記憶のある夢と、重なる。


―落とした瞼を、掬い上げるように開けた。


ぼやけていた視界は、徐々に鮮明になっていく。真っ白な視界の中には、誰かがいた。


「あー…起きて…くれた……」


えっ?

誰かは、その場で泣き崩れる。顔は見えない、でも、むせび泣く彼の声が聞こえた。

大丈夫、ですか?何があったんですか?怖く、ないですか…?悲しくないですか…?

声が出せない。それでも、私は声を出した。声じゃなくていい、ただ、伝えられれば。


「っ…うげほっげほっけほ!!!」


苦しい、咳が止まらなくなる。まるで、さっきまで溺れてたみたいに、肺が潰れそうだ。

それでも、目を開いてちゃんと見た。

真っ赤っ赤に腫れた彼の、優しい茶色い目を。もう、そらしたりしたくなかった。

茶色い彼の目には、私だけが映っている。私だけ、というのも、私がそう見えていただけなのかもしれない。