―おはよう。


彼女の言う、おはようが好きだった。


あんなにも、尊いように言うから。


だから俺も、彼女が起きたら、おはよって言った。

その時その瞬間は、世界で、俺と彼女だけが、おはよを交わしあっていた。

それが、どことなく嬉しかったから。俺と彼女だけしかできない、おはよだったから。


ねぇ、届いてる?

目を開いて、また俺に笑いかけてくれる?


「また嘘ついて、笑っててもいい。大丈夫、怖くないから、大丈夫。起きても大丈夫だから、一緒に生きよう…?感じ方次第で、息苦しくなんかなくなる。綺麗で、…優しい世界だから」


その時だった。


―ピーッーピーッーピーッ


強い強い頭痛の痛みに一瞬意識を失いそうになった。くらっとして、地面に倒れたけど、なんとか起き上がる。

嫌なものが襲った感覚がした。冷汗が垂れる。胸が息苦しくて、息ができない。

音が止まっ……


理解する前に、俺は動き出していた。


彼女の唇に、唇で触れる。

触れただけ。それでも、精一杯だった。


眠り姫は、王子様の口づけで目覚める。足掻きに足掻きまくった結果は、これだった。


まるで、雨みたいに、彼女の唇に墜ちた。