「何する気なのかな?説明、してくれる?」
医者は、どこか怒り口調だった。
「天塔さんを起こすつもり?それはもう、無理だよ。奇跡だし、今はそれどころじゃ。それに、手遅れだ。今起こしても、…もう」
「起きます。奇跡だけど、奇跡じゃないんで」
どういうこと?医者は呆れたような声を出す。俺は、彼女を見つめながら言った。
「自分の心から愛する、安心する人が運命の人になる。…だから、奇跡は奇跡じゃない。自分が、思えるかどうかの奇跡なんですよ」
俺は彼女を好きになって知った。奇跡は奇跡じゃない。自分が、思えるかどうかだから。
医者は、遠い目をしていた。ふっと笑って「あーあ、好きにしろよ」と呟いて、病室の扉を開ける。
「僕の方が、間違ってたみたいだな」
―ガチャン
医者は、病室を出た。扉が閉まるのが、妙に遅く、スローモーションに感じた。
あんなにも人がいっぱいいっぱいだった病室は、俺と彼女の、ふたりきりになった。
雨の音や雨の匂いがする。閉じた窓には、雨粒の模様ができていた。空は暗く、急に雨は降り始めたようで、とても肌寒い。
ズキン、と強い頭痛を抑える。
彼女を見やる。
瞼を閉じて、まだ、僅かに体を揺らす彼女。眠ったときから変わらない表情と体制。
―もし、起こすことができなかったら?