「朝くん、だったよね?ごめんね、朝くんだけ呼ばずに。傷つくかなとか考えちゃって。ほら、毎日来てくれていたでしょう?」
まるで葬式会場で話す口調のような母親に俺は、「どうでもいいんで」と続ける。
「どういうこと?もう死ぬってわかってるから、こんなに皆を呼んで、見届けるみたいなことしてるんですか?諦めてるんですか?」
自分で言ったあとにふっと笑ってしまったけれど、母親は涙目になるばかりだった。
俺はなんて、最低な奴なのか。いちばん、この世界でいちばん彼女の死を目前に落ち着いていられないのは、当の母親なはずなのに…
彼女は、瞼を閉じたままだった。
頭も心も体も、あの頃に見た笑顔も言葉も、全部全部、この世界から消えてなくなる。
眠ったまま、息が吸えなくなって足掻いても足掻いても彼女は、瞼を開けない。
その時、思い出した。
遠い昔に言っていた、毎日毎日が、まるで溺れているような感覚がしていたと。
今、それが、現実になっている。
死んでほしくなかった。最初に彼女と出会ったきっかけは、死だったのに。人が死ぬのは、こんなにも怖くて辛かった。
天国も地獄もどうでもよく思える。そんなこと関係ない、彼女は、死ぬんだから。