「翠の心拍数が、急に事態がおかしくなったらしい。医者の人は、体の体力がもうすぐ尽きてしまうとか、最悪の事態だとか言って」
「だから要するになにが言いたいの?」
思わず怒り口調になってしまう自分に夕は、ひとつ間を開けてから、真っ直ぐな眼差しを突きつけ言った。
「翠は、死ぬかもしれないってこと」
雨の音がする。
開いたままの扉を見やる。浅い呼吸をしながら、浅い昼寝のように、彼女は眠り続けてる。全く、死ぬ人の顔とは思えなかった。
「かもしれない、じゃない。翠のお母さんが朝だけを呼ばなかったのも、かもしれないじゃないから。多分、翠は眠ったまま……」
その時、ふらっとめまいがして夕に受け止められる。頭痛だった。激しい頭痛が襲う。
「っ…」
「頭痛?大丈夫か」
珍しく心配してくれる夕を横目に、俺は壁に手をつきながらなんとか彼女の病室へ戻ろうとする。が、引き留められる。
「朝、やめよ…?」
夕は、涙声になってた。俺はただ、じっと、雨の音を聞いている。
「息が出来なくなってきてるらしい。酸素ボンベももたない。病気の事例がなくてどうにもならないらしい。だ、から…、大人しく、見届けよう…」
その時、彼女の母親が病室を出てきて、俺の方に近付いてくる。母親も夕と同様、心配の表情に溢れかえっている。