大きな病院を見上げる。見上げ尽くしても、屋上もありそうだけど全体は見えない。
「病院…?ここに、翠がいんの…?」
思ってもいなかった場所だっただろうな、なんて思う。自分はただ、深く頷いていた。
いつもと同じで、中に入ると独特の病院の匂いが香る。足はもう慣れたことで、勝手に動いたように通路を進む。察したのか、後ろにいる柚からは何も聞こえなくなった。
―ざわざわと、胸騒ぎがした。
なんだか、嫌な予感がする。嫌な、嫌なものが襲うような感覚に、吐きそうになる。
さっきから看護婦さんが通路をバタバタと動いているのが目に入っていた。
そんなことは病院なんだから、当然なこと。毎日来ていたしこんな風景はよく見ることだっだろ?彼女の病室とはまだ距離があるし、てかそんなこと考えるのは、良くない。
そう、自分に何度言い聞かせても、駄目だった。
なんなんだろう。とても、怖くて。
まるで、俺は死刑執行される囚人のように、なんだか死へ向かうような感覚だった。
きゃはは、と笑い声が聞こえて見やると、小さな男の子がお母さんらしき女性と、手を繋いで歩いていた。
すれ違って行った後も、男の子の嬉しそうな声は、まだ、不思議と俺の耳に残っている。
退院する子供、かな。あの男の子も、なんだか、見たことあるような気がする。