式では泣いたのか、目の下には涙の後が残っている。一応化粧は校則上禁止なはずだけど、ばっちりメイクしてるって俺にもわかる。
背中を覆うロングの髪…、あんなに長くて邪魔じゃないのか、なんて思った記憶がある。
誰だったっけ…?全く思い出せない。
悩んだ末に出てきた名前が、
「むぎ?」
「うわショック…一文字も被ってないし…覚えられてないじゃん最悪ぅ…柚だよ、ゆず」
あー、彼女の元幼なじみであって、親友だったらしい、裏切った最低な奴。それで、電話越しに、なんか彼女に謝ってた人。
そっか、思い出した。『好きだから、付き合ってほしい』みたいなこと言って告白してきたりした、化粧濃いめの女子。今もまだ、返信してないけど。
「あのね、聞きたいことがあるんだけど」
「…なに」
きゃーっと後ろからは女子の悲鳴が聞こえ、それに柚は「うるさい!!」と顔を赤くしながらツッコミを披露する。
あー、こういう場面大っ嫌いなんだけど…
今日も病室だって行かないとなのに。
「翠はどこにいるの?」
思ってもいなかった質問に、「えっ」と声が漏れる。
「今日卒業式でしょ?もう夜野くんと話すのどうせ最後だと思うから聞いときたくてさ?」
告白されると思ってた。自分のどこか情けない部分に、笑みが溢れてしまった。