「…約束したから、起こさないって」


夕は驚いた表情をして、「なんで、翠はそんな約束を…」と考えるように下を向く。


「希望、失くしてるんだよ。何億人分の1人なんて絶対無理、一生死ぬまでその人とは出会えない、…だから悲しくなるから、起こさないでほしい。希望みたいなものを失いたくないのかって、俺は勝手に解釈してるけど」


それは、勝手な解釈。彼女の脳内は理解できない。教えてもらいたいけど、今は……


「…その約束守ってるの、すごい。頼まれて断れない俺だって、その約束は、守れない。朝は、本当は、いい奴なんだな」


そりゃあどうも、と何気なく答える。夕は口の悪いツンデレさんだったから、クズとかバカとかばっかり言われてたけど…、そんなことを言われるとは。なんか、嬉しい。



「だったら、運命の人になれば?」


夕は、帰り際にそう言った。

どういう意味?その言葉通りの意味だった?何も聞けずに、夕は出ていってしまった。

夕の連絡先は知ってるけど、きっと、もう話さない。だから、夕と会うのは最後だったのだろう。夕は、俺のことを嫌ってるし…

もう、会えない。10数年と一緒に過ごしてきて、離れたりしたけど、繋がりはあって今ここで、話ができた。彼女のおかげでもある。


…どこか寂しい。


夕陽の斜陽は次第に広がりを見せて、病室全体を照らす。窓からの日差しが直行する枕元にいる彼女は、どこか眩しそうだった。