「なんで起こさないの?」


気付けば、服の胸ぐらを掴まれている。一瞬、未だに治らない手の甲の傷が見えた。


「なに、なんで夕が怒ってんの」

「…っいやだって、毎日ここに来てんのに。なのになんで、起こさないの?意味わかんないんだけど」


何も言えなくなって、黙っていた。

確かに、彼女の母親も小鳥さんも俺の父親ですら、彼女を起こしに掛かってた。

…それでも、俺だけは起こそうとはしない。


「怖いから?起こせないのが俺じゃないって思うのが怖いから?そうなんだろ?」

「…違う」

「違わないだろ?逃げんなクズ」


何なんだろう。言葉にできない、怒りのようなものが溢れ出そうになる。

やめろ、押さえろ、溢れんな。また、誰かを傷つけることになるかもしれないし、溢れたら止めようがなくなるかもしれない。

この病気のせいで些細なことに苛ついたりはしてきたけど、それでも押さえてきた。

でもこれに関しては、我慢が効かないかもしれない、とプルプル震える手を必死に堪える。それくらい、ムカついたのかもしれない。


すると伝わったのか、胸ぐらの力は弱まりをみせ、終いには離れた。夕は背を向ける。