「治るって…」

「世界にたったひとりだけ、起こせる人がいるらしい。そのひとりに起こしてもらえれば」


僅かに上下に呼吸しながら、彼女は眠っている。瞼は今日も、開かない。

「じゃあ俺が」夕は立ち上がって、彼女に声をかけた。「翠、翠、起きろ」と肩を強く揺らしながら、ついでに頬を強く掴んで。

病室に響き渡る大きな声、大きく揺らされる体、強い頬の掴み方…、普通の人だったら嫌でも起きることを、彼女は不可能にする。


「起きない」


声をかけることに疲れたのか、へたり込むように、夕は椅子に座る。


「死んでも起きないんだって」

「死ぬと眠るが同じって…酷すぎ…」


頭を抱えながら、夕はまた涙を拭う。


「っ朝は…」

「なにが?」


惚けるように席を立ち上がる。立ち上がったのは、1番やられたくない質問で帰ろうとしたから。


「翠を起こしてみた?」

「…まあ、ね」

「なに、まあって。起こしてないなら、起こしてみたらいいじゃん」


病室の扉の取っ手を掴む俺の背中に、「待て!!」と夕の言葉が強い雨のように降りかかる。数年前と同じ情景だった。