秋、冬……

季節は、当たり前のように訪れて去っていく。どんなに惜しく思っても、過ぎていく。この風景も、この匂いも…、全部全部、彼女に見せてやりたかったものばっかりある。

きっと、彼女はそれを望んでる。だから、俺は写真を撮った。いい匂いのキンモクセイや、滅多に降らない雪や、まだ咲かない、2回目の桜の蕾も…


もうすぐ、高校生、の肩書きも終わる。将来を考えなきゃいけない。勉強しながらも、病室への訪れはやめなかった。彼女は、依然眠ったままで、瞼を瞑ったままだった。


毎日来てみれば色んな人に会って。

例えば、彼女の弟も来ていた。まず、弟がいるなんて初耳で驚いた。茶色い髪は、染めているのかななんて不意に思ったけど、彼女の弟だということを思い出して、納得した。

―小鳥、って名乗る女子とかもいた。

その子は、彼女の姿を見て泣いてたりした。何ヵ月も会ってないんだろう。母親が腹を割ってこの病室を教えたのかもしれない。


―春の匂いがする、二度目の冬の終盤。とても寒くて、吐く息は白に染まる。午後7時。

これまた意外な人物が、目を飛び込んで来る。


「夕?」


東花夕。俺は夕の隣のパイプ椅子に座る。夕は、彼女と俺を見てから、こちらも泣いていた。


「久しぶり…朝」

「夕、泣いてんの」

「あ?泣いてないし…」


涙を見られないように拭いながら、夕は言葉を絞り出すように言った。


「翠が、学校に来なくなった。病気のことも、先生が皆に話した。…今、眠ってるって聞いて、翠のお母さんにここ聞いて…」

「そっか」

「まじか…ほんとに眠ってる…、ずっとこうやって何10年も眠んの…?なんで…病気って…治るもんじゃないのかよ…」


治る、と俺は言った。自信あり気に言ってもいない、ただ、ロボットのように言ってた。