その人は、パイプ椅子に座り込んでいた。その場から逃げ出そうかとか考えたけど、やめた。その人物は俺を見た瞬間に、即座に立ち上がって「あ、朝!?」と大口を開く。


「どうしてここに!?」

「いや、なんでいんの」

「いやいや…、一応、元担当医だから。この病室にいるって聞いてね。今日は、天塔さんの様子を見に来たんだよ」


そう言って俺の父親は、体の力が抜けたようにパイプ椅子に再度座り込んだ。

父親は元々、彼女を診ていた医者らしい。

ここの病院に詳しい医者がいたからという理由で、毎日のように来ていた彼女はきっぱり病院に訪ねられることはなくなったらしく。

彼女は、変わらず仰向けで目を瞑り眠っている。仰向けの体制は、多分、眠ったときから変わってない。


「なんで病室に?天塔さんの友達か何か?」

「あーそんな感じ」


適当に答えながらも、隣の空いたパイプ椅子には座らない。自分の父親とふたりで、彼女を見つめるとか、そんなの絶対、嫌。


「彼女のことは、全部聞いてる?」

「聞いてる」

「朝の病気のことも、言った?朝と真逆の病気って」


言った、とまたロボットのように頷く。立つのも疲れるので、仕方なく隣のパイプ椅子に腰を下ろした。