「それに、惜しかったんだと思います。起きたのに呼ばなかったのは、別にあなたのことが嫌いとかじゃなくて。会ってしまうと、眠る時に怖くなって、苦しくなるから」

「…そう、かもしれないね」

「実は俺、昨日に会ったんです。でも、偶然会っただけで。他の人とも誰にも会わないつもりで、また眠ろうとしてたんでしょーね」

「そう、翠と会ったんだねぇ…」


母親は、優しく彼女の頭を撫でる。


「あなたのお名前は?」

「…朝、です」


この名前が嫌い。だから、言うのもあまり好きじゃないんだけど。

でも、彼女の前なら、きっと自信を持ってこの名前を好きだと、言える気がする。


「朝くんね。いい名前だ」


母親は、彼女を見つめながら嬉しそうに笑った。













夏の終盤。どこか肌寒く感じてきた。

彼女に会えなくて、息苦しく感じる。夏とか秋とか、空とかキンモクセイとか、どうだっていい。あの人と見るから、価値があった。

あの夜以来、相変わらず、目は瞑るだけで機能せず、眠れない毎日が続く。長い1日をずっと生きてる気分で吐き気がする。


清々しい空気が通った曇り空の日。午後6時半頃。


「…えっ?」


慣れた手付きで病室の扉を開けると、意外な人物が目に飛び込んできた。